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かなり長い間 野宿が続いていた。久々の宿屋で取れた部屋は4人一緒の大部屋。何はともあれ、モンスターに襲われる心配のない場所でぐっすり眠れるのはありがたいことだ。「……ちょっ、クク、なに―――」「シッ。…あいつらに気付かれる」しかし、夜中に襲ってくるのはモンスターだけとは限らない。むしろモンスターより何倍も厄介な男に、ゼシカはベッドの上に組み敷かれていた。「気付かれるって…当たり前でしょ!何やってんんんんっ」「だから静かにしろって。じっとしろ」「んんん!?」手で口をふさがれ、ゼシカは目を丸くして目の前の男を見上げる。男の目は本気だ。この「本気」の凶悪さを、ゼシカは何度か身をもって味わっている。…………嫌な予感しかしない…………。 *それからしばらくすると、小さく小さく押し殺したような呻きが断続的に聞こえ、盛り上がった布団の中で、2人分の身体がモゾモゾと動いているのだった。「んんんん…ッ、…ん、ふぅ…っ」大きな手の平でガッチリと口を押さえられているので、ゼシカは鼻からもれる息だけで必死にわきあがる喘ぎをやり過ごしていた。横抱きにされ、背中から回された腕。その指先はもうずいぶん長いこと胸の頂きをなぶり続けていて…。「あぁ…ホントにたまんねぇわ…お前の胸だけは」ククールのため息混じりの囁きは、恍惚とすらしている。ゼシカを悦ばすためだけではなくて、単にククールはゼシカの胸を意味もなく延々と触るのがもともと大好きだ。曰く「感触が至高」、らしい。もちろんゼシカがその快楽に特別に弱く、いじればいじるほどイヤらしさを増すことも、もう一つの大きな目的ではあったが。おかげでゼシカは息苦しさで意識が朦朧としてきた。普段は自分のあられもない喘ぎを恥じるのに、今はせめて思う存分声が出せればと切に願っている。声を出せないことがこんなに苦しいとは思わなかった。そして声を押し殺すということが、禁じられた行為を強いられていると強烈に実感させ、それがさらに快楽のスパイスとなってゼシカを乱れさせる。仲間が、いるのだ。すぐそこに。自分達がこんな淫らな行為をしていることがバレたら…「苦しい…?…ごめんな。でも、ゼシカが望んだんだから仕方ないだろ?」そう告げるククールの表情は、謝罪とは程遠い欲望に満ちた笑みで満たされている。背後からの囁き声に、ゼシカは羞恥を噛みしめた。確かに、…望んだ。「抵抗したってヤる」。「エイト達が起きたってかまわずにヤる」「アイツらにお前のグチャグチャに感じてる姿見せつけて、あいつら追い出してでもヤる」「死んでもヤる」…とまで言われ、獰猛な肉食獣に対面したウサギのように身体が竦んでしまった。その隙を、男は決して見逃さない。本気で嫌なら、それでも断固として抵抗すればよかったのだ。『お願いだから口をふさいで』などと懇願する前に。 「…ッ!ぅふ…っん!」後ろから拘束された身体は狭いベッドの上でろくに動けず、されるがまま。胸の硬い尖端をそれはもう器用にもてあそぶ指先が、それまでの優しくぬるい刺激から打って変ったように、キツく、強く、ギュッと力を込めてそれを絞り、角度をつけてつねった。ゼシカは目を見開いてビクン!と身体を跳ねさせる。それを押さえつけ、ククールは自らの下半身の滾りを、彼女の片足だけ曲げられた太ももとお尻の間の、キワどい場所にグリ、とこすりつけた。ズボン越しでもハッキリと伝わる、その火傷しそうな熱さ。「…………イけよ」明らかな揶揄の含まれたひどいセリフだ。ククールはこの状況が楽しくてたまらないらしい。ゼシカの目に急激に涙がたまり、シーツに顔を押し付けて必死で首を振った。今だってこんなに苦しいのに、口をふさがれたままで絶頂に達するなんて、あまりに辛い。ククールはきっと、私に声を出させたいのだ、とゼシカは思う。それで仲間に知られてしまうことなんてどうでもいい。ただ、私に恥辱を味あわせたいだけなのだと。いつの間にかズボンの中から引きずり出されたククールの欲望が、直にゼシカの下半身を這い回った。ぬめりを持ったその熱い塊に、否応なしに股間がひくつく。行為が久々なのは、ゼシカも同じだ。度合いは違えど、飢えているのはククールだけじゃない。昼間は意識もしない性欲が、ククールのしつこい愛撫によって久方ぶりのあの絶頂を思い出し、いつもより何倍もゼシカの体を敏感にしていた。股間はずっとひどく、ひくついている。だけど。ゼシカは経験上、嫌というほど知っている。だけど、まだまだ延々と快楽の地獄は続くのだ。こんな、絶対に声も上げられない状況で、それでも無理やり幾度となくイかされ、焦らされ、あの熱い塊に貫かれても、なお…「あっつ…」布団の中の狭い密室は異常に暑くなっていた。ククールはふぅ、と息をついて汗を拭う。ゼシカが嫌がっているのは重々承知の上で、強引にイかせてやりたかったのだが、彼女がギリギリのところでなんとかこらえているのを感じ、ククールは苦笑した。(ぶっちゃけ、アイツらにはもうバレてんじゃねーかなー…なんて)今のところ可能性は五分五分というところか。邪魔さえしてくれなければ、ククールにとってはバレてようがバレてまいが、正直どっちでもいいのだが。それでも必死な努力を続けるゼシカが可愛くて可愛くて、…イジメたくてたまらない。硬く張りつめている己自身を取り出して、ゼシカの腰やお尻や太ももになすりつけた。自分の快感を得ると同時に、コレの存在を強調することでゼシカの興奮もいや増すはずだ。ゼシカはいやいやをするように、小さく顔を振った。小刻みに震える身体。…ふと気付くと、ゼシカの瞳から涙がこぼれ、彼女の口元を覆うククールの手の平にまでツッ、と雫が伝ってきていた。「…ゼシカ」内心少し焦って、愛撫の手を止める。後ろから前髪をかきあげなだめながら目尻に口付けて、ゆっくりと手を離し、塞いでいた口唇を解放した。「…大丈夫…か?」今さら過ぎてなんだか情けないが、聞かざるを得ない。やりすぎたか。ククールは若干の不安を抱いて、身を乗り出し、彼女の顔をのぞきこんだ。はぁ、はぁ、と荒い息。飲み込めない唾液が赤い口唇から滴り落ちてシーツに染みを作る様がいやらしい。涙は生理的なものだったようで、嗚咽が聞こえてこなかったことにククールは安堵した。しばらくすると、ククール、と吐息のような呼びかけ。続いて紡がれた言葉に、ククールは息をのんだ。「――――…………もう…ッ、……入れ、て…」 ゼシカに与えられた選択肢はあまりにも少なくて、それは苦渋の決断だった。自らそんな風にねだることも。誰かがいる場所でセックスすることも。声を押し殺して達することも。したことなんてない。全て、今唐突に突きつけられ、強要されているようなもので。ぜんぶ、死にたいほどに恥ずかしい行為で。それでも、選ぶしかなかった。「…もう…いい、から…ッ。…いいから今すぐ…入れて……」顔を真っ赤にしながらそんな懇願をする恋人の姿に、男が欲情を煽られない方がおかしい。ククールは即座にその意図を悟って、下卑た笑みを浮かべ、横抱きの体をキツく抱きしめた。「…まだ指も入れてねぇけど?…ココ」「いいからッッ!!早く…ッ」早く―――“終わらせて”。口走ったその言葉に、ククールはさらに口角を釣り上げた。そういうことか、と。「オレ、さすがに今夜はかなりデカいけど」卑猥な言葉は羞恥を煽るばかりで、聞きたくなくてゼシカは目をつぶり身を固くする。ククールはほくそ笑み、痺れるような低音を彼女の耳に直接吹き込んだ。「………いいの?突っ込んで。………………痛いよ?」恐らく大丈夫だろうと、ククールは考える。胸が敏感なのは百も承知だし、十分いじりまくって感じさせたあとだ。直接触れていなくても、挿入に問題ないくらいに濡れていることは間違いない。だけど、そんなことゼシカには判断のしようがないだろう。痛みを感じる時と感じない時の区別がつくほどの乱暴な扱いをした覚えは、ククールにはない。…ただ、卑怯な男の脅しに怯えるゼシカが見たかっただけだ。案の定ゼシカはビクリと反応し、泣きそうな顔で押し黙った。どうするだろうと反応を見ていると、しばらくして、ゼシカはおずおずと、片足を自分の腹に付くほどに深く折り曲げた。必然的にさらけ出されるのは、まさに「入れて」と願ったその場所。柔らかい双丘の狭間にのぞいたその淫らな光景を後ろから見せつけられて、ククールは思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。…いいから、と、蚊の泣くようなゼシカの声。「…………もう…濡ら、さない、で……ぃぃ…」痛みなら、いい。痛いのは我慢できるから。でも、こんな状況で、発散できない快楽はもはや苦痛だ。気持ちよくなくていい。痛くてもいい。ただ、ククールが欲望を満たせるなら。早く入れて。早くイってしまって―――羞恥に顔をゆがませ、自ら秘所をさらけだしてそう懇願する様のなんと健気なことか。そう、そういうことだ。彼女は自分の快楽は打ち捨てて、オレが一刻も早く果てることだけを優先した。ここは要望通りに早く終わらせてやるのが、優しさというものだろう。頭ではそう思いながら、笑いがこみ上げるのを押さえきれないのは、どうしてだ―――。「…そんなこと言われたら」「!?」ふいに、ククールの指が、火照った割れ目にピタリと当てられた。「―――濡らしたくなる」「…ッ!!!やめ、―――んぅ――っっ……!!!!!」驚いたゼシカの口を再び手の平で覆って、ククールの指がその中にズルリと侵入した。思った通り、問題なく濡れて、キツく張り付いてくる。ゼシカの瞳は動揺のあまり涙を浮かべ、こみあがる声を抑えることで必死だ。なるべくゆるい刺激で、とは思うが、知り尽くした性感帯と敏感な内壁は、お互い無意識に気持ちいいところを貪ってくる。ゼシカの腰がじりじりと揺れた。イイ所を擦るたびに、ビクビクと身体が跳ねる。苦しそうな表情はククールの困った性癖をやたらとくすぐって、どうしようもなく興奮させた。…痛みで快楽を軽減なんて、させてやるわけがない。…死ぬほど気持ち良くして、もっとオレとのセックスに堕落させてやる。今どういう状況でこんなことをしているのかもすっかり忘れ、ククールはそんなことを考えながらゼシカが嫌がりながらも自分で腰を振って、ひどく感じている淫らな様に夢中になった。 「…っやべぇ…限界…。…ゼシカ…入れる、から…」「―――ッッ!!」「…足あげて…」ゼシカが後ろを振り返るのと同時に、折り曲げた太ももに手をかけ持ち上げ、ひっくり返される勢いでククールの欲望がのめり込んできて、思わず悲鳴があがった。「ひゃ、あ、あぁぁっ――――あっ、ダメ…!!」「大丈夫たぶん…そんなにもたないから…」「いやあ、あっ、あっ…んうぅ、んん…」「ごめん、ちょっと強くするけど…我慢して」「んんん―――ッッ!!ん、ふ…っう…んう…」また同じように口を塞がれ、枕に顔を埋めて指の間から漏れる息を抑え込む。律動は激しく、最初から絶頂に向かう動きでお互いを一気に追い詰めた。ゼシカは涙と唾液で口を覆うククールの指を濡らした。綴り泣きのような声を漏らしながら、シーツにしがみついて、彼が自分の中で達するのを待った。自分の下半身はもうバカみたいになっていて、ジンジン痺れた感覚が身体の中心に広がり霧散するのだけが、ひたすらに繰り返されるのみだ。息ができなくて、苦しくて、早く終わってと祈りながら、高まっていく最後の快感に思考回路がめちゃくちゃになっていく。イって。イかせて。苦しい。叫びたい。キモチイイ。もっと。もっと。早く。イって…イかせて。…あと数回突かれたら、気を失っていたかもしれない。そんな瀬戸際で、ククールの手がゼシカの口をそっと解放した。いつのまに終わったのか。ゼシカは多分何度も達していて、いつが最高潮だったのかもわからない。気がつくと内股とお尻が彼の放ったもので汚されていて、あとには2人分の荒い息だけが響いていた。ようやく息を整え、あまりの暑さにふとんをめくってしまって、ゼシカの体を仰向けにし覆いかぶさり、久方ぶりにその顔を正面から見る。「……ゼシカ。……大丈夫か……?」未だ胸を荒げて大きく息をしつつ、ゼシカが呆けた顔で見上げてくる。「…マジごめん…やりすぎた…辛かっただろ…」囁いて優しく口付けすると、ゼシカの顔が徐々に歪み、またたくまに大粒の涙を流し始めた。「――――っひ…っ、…ば、かぁ…っう、ひぅ…」「うわ、ごめんごめんホントに…よしよし」ククールは大焦りで顔じゅうにキスの雨を降らせ、泣き声を抑えるためにもぎゅっと抱きしめた。「風呂入ろうな。キレイにしてやるから」「クク、の…ばか…きらい…ぅぅ…」「ごめんごめんごめんごめん…」 **その後数日かけてククールはゼシカのご機嫌をとる羽目になるのだが…と同時に、すっかりバレていることを「ゼシカには黙っててやる」という条件の元、仲間たちの精神的苦痛の慰謝料を、パシリという形で支払うことにもなる色男だった。
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旅を続けるエイト達一行。まだ日も高くそれほど疲れてはいなかったが、目的の町に着いたので休憩をとる事にした。 宿屋を探して歩いていると町の人々がこちらを見ている。特に男達の視線が集まる。 「・・・?なんだろ。旅人が珍しいのかな?」 「なんでげすかねぇ?」 エイトとヤンガスは不思議そうに辺りを見ていた。 そんな二人の会話も気にせずゼシカは始めて来た町を見物していると、ある事に気が付いた。 隣を歩くククールの顔が怖い。しかも妙に自分にピッタリくっついている。 「?ククール、どうかしたの?怖い顔しちゃって」 「・・・・・・」 顔を覗き込むと更に怖い顔になって睨まれてしまった。 機嫌悪、と思い少し離れて歩くがククールは離れようとしない。 「なによ?」 「いいからオレから離れんなよ」 は?意味がわからない。怒ってるかと思い距離を置いたに離れるなとは。 こんなククールと一緒に居てはこっちまでムッとさせられる。そんな事を考えていたらエイトとヤンガスが立ち止まりキョロキョロし始めた。 「どうした?」 不機嫌そうにククールが声を掛けると、エヘヘと緊張感の欠片も感じられない笑顔でエイトが振り返った。「宿屋がわかんない」 それほど大きな町ではないが複雑に作られている所為で道に迷ったらしい。 道の真ん中に立ち止まり地図とにらめっこをしていると相変わらず町の男達がチラチラとこちらを見ていた。 「だぁーっ!!てめー、今ヤラシイ目でゼシカの事見てただろ!!」 大声を上げ絶叫するククール。次の瞬間には呪文を唱え始めた。 あの詠唱は・・・グランドクロス! 慌ててエイトとヤンガスが止めに入る。 大騒ぎしている三人を端で見ていたゼシカが盛大な溜息を吐き出した。 どうやらククールの不機嫌な原因はゼシカの装備している魔法のビキニにあったらしい。町の男達はそれを見ていたのだ。 二人がかりでやっとククールを落ち着かせたが、息も荒くゼシカに歩み寄ってきた。 「・・・くそ!これでも羽織れ!」 ククールはマントを外しゼシカの肩に掛けてやる。そして手を取りズンズンと歩き始めた。 「ちょっ!ククール?」 「おい!エイト、早く宿屋見つけろよ!」 エイトを怒鳴りつけゼシカを人目につかない路地裏に連れ込んだ。 「ったく!だから魔法のビキニ買うの反対だったんだ・・・」 「でもコレ結構守備力高いし、可愛いし」 「確かに可愛いけど・・・可愛いけど・・・」 オレ以外の男の目に触れさせたくないんだよ、と頭を抱え込みブツブツ言っているククールを見ていたらゼシカはなんだか急に嬉しくて自然と顔がにやけて来てしまった。 「?なに笑ってんだよ」 「フフ・・・バカね」 そう言うとゼシカはククールの頬を両手で包み込んだ。 「ヤキモチ妬く必要なんてないのに」 私はアンタのものなんだから。最後の言葉は声にせずククールを見つめる。 「ゼシカ・・・」 「ククール・・・」 お互いの顔が少しづつ近づいてゆく。ククールの唇がゼシカのそれに重なり合う瞬間。 「ククール!宿屋見つかったよ!」 嬉しそうな声のエイトの邪魔が入った。 「てんめぇ~エイト・・・」 がくりと頂垂れるククール。ゼシカは顔を真っ赤にして苦笑いを浮かべている。「あれ?二人ともどしたの?」 そしてキョトンとしているエイト。 「続きはまたね」 ゼシカは残念そうにしているククールにそっと耳打ちし、エイト達の所へ走って行ってしまった。 その後ろでは凄い形相でエイトを睨むククールがいた。 そんな三人を眺めていたヤンガスが一人呟く。 「兄貴・・・絶妙のタイミングでがす・・・」 終
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体に突き刺さるような寒さから、ククールは目を覚ました。 ぶるっ、と身震いする。重い身体を起こし、あたりを見回す。 「………?」 知らない部屋。 自分が使っている物を含めてベッドが四つ並んでいる。右隣にゼシカ、左隣にヤンガス、その向こうにはエイトが眠っている。 けたたましくガラスを叩く風。窓の外には見慣れぬ雪の嵐、薄明るい夜。 まだハッキリしない頭で自分の置かれた状況を考える。 ―――確か、オレたちは黒犬を追って北に向かっていて… 「つ…ッ!」 身じろぎすると、打撲のような鈍い痛みが全身を襲った。瞬時に記憶が蘇る。轟音と共に、視界に迫る圧倒的な白。ゼシカの悲鳴。 「雪崩が…!」 ベッドから飛び降りて、ゼシカを見る。 ゼシカは毛布にくるまって、すやすやと安らかな寝息を立てていた。 ククールはゼシカを起こさないように毛布を剥いだ。 顔に色が無いのが気になるが、呼吸は落ち着いている。とりたてて大きな外傷はなさそうだった。 ホッと安堵の息をついて、一応他の二人の様子も見る。 いつもどおり必要以上に元気に寝ている凸凹コンビに少しうんざりして、寝ていたベッドにひとまず腰を下ろした。 「それにしても…ここはどこだ?」 あらためて周囲を検分する。古いけれど綺麗にしてある、人の手が行き届いた小さな部屋。 悪い気配は感じなかった。 誰か―――あの時先に行ったトロデ王あたりが、雪崩巻き込まれた自分たちを、近くにあった山小屋に運んだというところだろうか。 ククールがそんな事を考えていると、寝ている筈のゼシカが突然大声をだした。 「いい加減にしなさいよ…ッ!ククールッ!!」 いきなり名前を叫ばれて、ぎょっとする。おそるおそる声をかけてみる。 「ゼシカ…?」 返事は無い。 「どーゆー夢見てんだよ…。」 何もしていないのに、後ろめたさを感じるのは、日頃の行いのせいだろうか。冷や汗がでる。 「夢にまで見てくれるなんて、男冥利につきるね…。」 ククールはゼシカの寝顔を眺め、頭をそっと撫でた。 「う…ん…寒い…ククール…」 ゼシカは仰向けに寝返りを打って、言葉を洩らした。 続けざまに名前を呼ばれてドキリとする。ささやかな嬉しさで、心が小さく波立つ。 「寒いって言っているし、身体で暖めてやろうかなぁ。」 下らない発想は言葉に出して言うと、急に現実味を帯びてきた。 ゼシカは本当に寒そうだった。むき出しの肩は鳥肌が立ち、吐く息は白い。 ゼシカを暖める為に今自分が出来ること---抱いてやる他に何がある? 上向かれた、色の引いた唇は、乾燥して潤いを求めるようにほんの少しだけ開かれている。 しどけなく乱れた服からのぞく、肌理の細かい白い胸。 幸いにも“凸凹兄弟仁義”たちはぐーすか寝ている。 自分の腕の中でうっとりと目覚めるゼシカ。あわよくばキスして服を脱がせて… ---いや、それは駄目だろう!とククールは自分の不埒な想像に自らツッコミを入れた。 そう。ただ抱いて寝てやるだけでいいのだ。 ククールが躊躇うのは、ゼシカに対して自分の理性がどこまで働くのか、自信が無いからだった。 葛藤しながらゼシカの顔をみると、先ほどより更に色を失っている様に見える。触れてみると氷の様な冷たさだった。 あーもう、いい!どうなろうと必ず幸せにしてやるぜ、と立ち上がり、上着を脱いだ。 そのとき、カチャリと部屋のドアノブが音を立てた。 ドアが開き、見知らぬ小さな老婦人と、大きな犬が入ってきた。 ククールは上着を脱いだ姿勢のまま、硬直した。 「お目覚めですかな旅の人。」 「え…、あ、はい。」 なんとか返事をする。 「良かったです。上に来て温かい薬湯でも飲みなされ。」 「あ、でもゼシカ…連れの女の子が寒がっていて…」 「おお、そうでしたか。バフや、暖めておやり」 老婦人の命令に従って、犬がゼシカの横に寝そべった。犬はふかふかで、いかにも暖かそうだった。 「………。」 諦めたククールは老婦人の後ろに従いつつも、名残惜しく、犬に埋もれるゼシカを顧みる。 犬が白い目で見ているような気がした。 ククールは恨みと感謝のないまぜになった心境で犬を睨み返して、部屋を出た。 部屋のドアがしまるのと同時にゼシカの目が開いた。 「バカ…。根性無し…。」 ゼシカは閉ざされた扉と犬を見て、口を尖らせて小さく呟いた。
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「一体何があったんでゲスかねえ…」 不思議な泉の前に、放心したような表情のヤンガスが、 空を見上げてポツリと呟く。 その隣で所在なさげに立っていたトロデ王が声も無く頷いた。 突然何の前触れもなくいなくなったククールとエイトに、 理由も行き先も知る術もない他の四人は、 ただ泉の前で待ち続けるしかなかった。 ミーティアは馬の姿のまま、落ち込んだ様子も露に、 本日何度目かの泉の水を口にちびちびと飲む。 「これミーティア。あまり飲みすぎるのはいかんぞ」 その背を宥めるように撫でながらトロデ王が窘めるものの、 ミーティアは憂いをたたえた表情で、 横に首を振って聞こうともしない。 ゼシカは草むらの上に膝を抱えて座り込み、 心ここにあらずな様子で、ブチブチと身近にある草を、 手許も見ずに引き抜き続けている。 はあ…と誰のものとも付かない溜め息が零れたとき、 不意に泉の入口から草を踏みしめるようにして歩く足音が聞こえ、 咄嗟にヤンガスとトロデ王が振り返り、ミーティアが顔をあげた。 「「ククール!!」」 二人の声が驚きにハモりを響かせてから、 ようやくゼシカがハッと我に返った様子で、 立ち上がるのと同時に振り返った。 ふしぎな泉の入口の方から、 ククールが「悪い悪い」と言いながらバツの悪そうな顔で、 片手を挙げて歩いて来る姿がゼシカの視界に映る。 「ククール!」 二人とは一呼吸以上遅れて叫び、 ゼシカは逸早くククールの許に駆け寄った。 ぶつかりそうになる一歩手前で二人同時に立ち止まり、 涙に潤んだ目でゼシカがククールを見上げる。 「この、バカ!!一体どこに行ってたのよ、 何かわかんないけどエイトも一緒にどっか行っちゃうし、 本当、何かあったのかと思って心配し」 耐え切れずに薄らと涙を浮かべ、大きな声で捲くし立てるゼシカを、 ククールが何も言わずに、遠慮がちに抱き締めた。 突然全身に伝わる温もりに、驚いたゼシカの声が止まる。 「ゼシカ、…ごめん」 申し訳なさそうな声音で、ククールはゼシカの耳元に囁いて、 名残惜しそうに抱き締めていた腕を解いた。 そして何が起こったのか把握出来ずに呆然とした ゼシカの肩に両手を置き、僅かに屈むような体勢で見つめる。 何かを言いかねて躊躇うように、ククールの双眸が左右に揺れる。 「……ごめん……好きだ」 真摯でどことなく申し訳無さそうな表情を浮かべ、 ゼシカを見上げるようにしてククールが短く告げる。 その言葉の意味を、ゼシカは瞬間理解出来ずに眉を顰めた。 「…何が?」 あまりにも間の抜けた返答にガク、とククールの肩が落ちる。 困ったように顔を顰めながらも、 ククールは気を取り直してゼシカの目を見つめ直した。 「ゼシカが…好きなんだよ。誰よりも、何よりも…………愛してる」 囁きかけるような掠れた声音で再度想いを打ち明けながら、 ククールはゼシカの口許を見つめ、目を閉じて顔を寄せた。 徐々に寄せられるククールの顔と、その言葉に、 ようやくゼシカの止まっていた思考回路が元に戻るのと同時に、 首筋から額にかけて一気に赤く染まり始める。 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待っ」 突然のことに困惑の色を露に、 ゼシカが上擦った声をあげ制止をかけるも、 ククールの動きが止まる様子は無い。 あまりの至近距離が耐え切れずに、ゼシカは目を強く閉じた。 チュッと軽い音が聞こえてゼシカの額に柔らかい感触が伝わる。 「……オレにこういうことされるの、嫌か?ゼシカはエイトが…」 好きか、とククールが問い掛ける間も無く、 唇にキスされるかと思っていたゼシカは、 身を強張らせていた力が一瞬にして抜け、 ずるずるとその場に崩れ落ちて行く。 「お、おいゼシカ!」 慌ててククールがそれを抱きとめるも一瞬遅く、 ゼシカは赤くなった顔を両手で押さえ、 その場に座り込んで俯いてしまう。 「…ゼシカ…?」 ククールがその前に膝を付いて、心配そうに覗き込む。 「…私も…あんたのこと、悔しいけど、 すごく悔しいけど、…ずっと…好き、だったわよ…」 少しの間を置き、俯いたままのゼシカが 今にも消え入りそうな小さな声で呟くように零す。 その言葉にククールは僅かに驚いた表情を見せたあと、 目を薄めて心底安堵したような柔らかい笑みを零し、 「……ありがとう」 と短く耳元に囁きかけて、ゼシカの身体を柔らかく抱き締めた。 「…でも、いきなりこんなことされたら心臓に悪いわよ、 このバカ――――――――――――――!!!」 そんなククールの不意を突くように ゼシカは突然真っ赤に染まった顔をあげると同時に、 勢い良く振り被ってククールの右頬を張り飛ばした。 バチーン!と大きな音があたりに響く。 「ちょ、まっ…何もそんな怒ること」 「怒るに決まってるでしょ!こんなに心配させて、 挙句の果てに私の了解無く変なことまでしようとして!」 叩かれた頬を押さえ、逃げ腰になるククールを、 ゼシカが自分の腰に手を当てて、物凄い剣幕で言い返す。 そんな二人の一連の様子を、少し離れた位置で見守っていた ヤンガスとトロデ王はお互いに顔を見合わせたあと、 「自業自得ですげすな」 「喧嘩をする程仲が良いと言う奴じゃろうな」 と交互に安心半分、呆れ半分で呟きを零し、 やれやれと言った様子で肩を竦めると、再び旅に戻る仕度を始めた。 更にその二人よりも後方に少し離れた位置で、 ルーラでこっそり戻って来た エイトとミーティアが寄り添うように立って、二人の様子を眺めていた。 馬の姿のままのミーティアの長い鬣を優しく撫でたあと、 柔らかく細められたその目を見つめて、エイトは幸せそうに微笑んだ。 un titled1 un titled2 un titled3
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「まだ飲み足りないの?私は宿屋に戻って休んでるから。どうぞごゆっくり!」 「そりゃないぜハニー」 そう言うククールの周りには、いつものようにバニーガール。 エイトはやや困った風情で、ヤンガスは「ま、仕方ないでげすね」という表情でこちらを見ている。 ゼシカはそんな仲間たちを見ながら酒場を後にした。 ここはドニの町。宿屋は道を挟んですぐ向かい側…のはずだったが。 「あれ?私酔ってる?」 外は真っ暗だった。町の灯りがあって然るべきなのに。 振り向くと、たった今出て来た酒場の扉すら見えない。 手を伸ばしても何にも触れられない。 「あれ?なにこれ?やだ…ねぇ、みんな…みんな、どこに行っちゃったの!!?」 「!!…夢、だった…のね」 ふぅ、と息をつくことで、ゼシカはようやく今の出来事が夢だったと実感できた。 「随分とうなされてたでげすな」 心配そうに語りかけてくるヤンガスの声を聞き、ゼシカは記憶の整理をする。 「スープか何か貰ってきやす。ちょっとでも食った方がいいでがすよ」 そう言って派手な足音を響かせ受付カウンターへ向かうヤンガスを見送りながら、ゼシカは天井を仰いだ。 (そうだった。私はあの杖に操られてとんでもないことをしちゃって、みんなが助けてくれたんだっけ…) 七賢者によって杖に封じられた暗黒神の魂から放たれる邪気は、想像以上にゼシカの身体を蝕んでいた。 一行は彼女の体力が回復するまでリブルアーチ逗留を余儀なくされてしまっていた。 ゼシカは数日間眠り続け、一度は目を覚ましたものの、仲間の顔を見て安心して再び眠りに落ち、そして今の悪夢に襲われたのだ。 横になっていたら悪夢の続きを見てしまうかもしれない…。 そう思ってゼシカはゆっくりと起き上がった。意図してゆっくりではない。身体が鉛のように重く、思うように動いてくれないのだ。 眠り続けていたゼシカは知らないが、宿屋の従業員はゼシカを恐れて客室に近付こうとはしなかった。 無理もない。ゼシカは町の中であれだけの事をしてしまったのだから。 町で平和な日々を送る人々は、呪いや魔法のなどといった日常からかけ離れた事柄についての知識は無いに等しい。 何かあったところでハワードのようなその道に心得のある者を頼れば良いのだから、なおさらである。 そんな彼らには、ゼシカの見た目以外の違いが分からないのだ。 「良かった。寝てなかったでげすな」 ヤンガスがスープを持って戻って来た。 「ありがとうヤンガス」 ゼシカはスープを受け取り、立ち上る香りを嗅ぎ、口に運ぶ。 スープを味わう。 ただそれだけの事に、ゼシカは幸せを感じずにはいられなかった。 暗黒神に操られていた時は、何を食べても味も香りも感じられなかったのだ。 意識だけを残しておいて他の感覚を全て奪い、操る。 そのことでもたらされる不安と恐怖を糧として、その呪縛は更に強固なものとなる仕組みだったようだ。 暗黒神の呪縛の恐ろしさを、解放されてみて改めて思い知らされる。 スープの熱さと塩味が少し滲みた。口の中と、唇と。 痛かったが、しかしその事がゼシカには心地よくもあった。 「…おいしい」 「そりゃ良かったでがす。ゆっくり食ってくだせえ」 「ねぇ、みんなは何してる?」 時間をかけてスープを半分程に減らしたところでゼシカが切り出した。 「兄貴は馬姫様とおっさんの所に行ってるでがす。ククールは…」 一瞬考え込むポーズをした後、ヤンガスは続けた。 「アッシと交代した時、ちょっとドニの町まで行ってくるって言ってやしたね」 「ドニの町?」 ちくっ、と胸に刺さる地名だった。 ドニの町にはククールの知り合いが何人もいる。 面倒見の良さそうなおばさん。説教をしてくれるおじいさん。気さくな酒場のマスター。 そして、酒場に入ると喜んで駆け寄ってくるバニーガールたち…。 馴染みの顔に逢って嬉しいのは分かる。けど、バニーガールたちにもみくちゃにされているククールの姿を見るのは、何となく嫌だった。 「私が動けないから…暇つぶしに行ったのかな?」 ゼシカの絞り出すような声を耳にして、ヤンガスの頬には一筋の冷や汗が流れる。 「そっ、そんな事は無いと思うんでがすが!酒ならこの町でも飲め…」 しまった!!とヤンガスは思ったが、時既に遅し。 「ふーん。用があって行ったんだ。ドニの町に」 一行の足を止めているのは、他ならぬゼシカ自身だ。 自分の回復を待ってくれているだけでありがたいと思わなければならないのに。 仲間の自由時間の使い方に目くじらを立てるなんて立場ではないのに。 なのに、胸が痛む。 突然、宿屋のドアが乱暴に開けられた。 「あ、すいません、大きな音たてちゃって」 「まぁ大変!転んだりなさったの?!」 「いてて…。ったく、階段多すぎだぜ、この町は」 二人の男の声と宿屋のおかみさんの声が交互に聞こえてくる。 エイトとククールだった。 「お!兄貴たちが来やしたね」 ゼシカにどう声をかけたものかと思案に暮れていたヤンガスが、助かった、とばかりに受付カウンターの方へ向かう。 「ほんとに二人して転んだみてぇでがすなぁ」 笑いながら言うヤンガスの口調で二人が大した事態ではないと、姿を見る前にゼシカには解釈できた。 ほどなく部屋に入って来た二人は、なるほど土ぼこりにまみれている。 ククールがエイトの肩を借りている状態だった。 「馬車の前で陛下と話をしていたら、ククールがルーラで飛んで来たんだ。「そこどけ~!!」って言われたんだけど、避けられなくて…」 「直撃を喰らったでげすか」 うん、とエイトが頷く。 「トロデ王やミーティア姫に当たらなくて良かったじゃない」 「うん。陛下もそう仰ってた」 エイトの言葉で一同は笑い出した。 笑いながらゼシカは思う。 (うん、夢じゃない。私、みんなの所に戻ってこられたんだ…) 「ああ、わりぃ。二人ともちょっと席外してくれねえ?」 ククールのその言葉に、ぴくっとゼシカの肩が一瞬震えた。 ドニの町から帰って来たククールに、一体どう接すればいいのだろう? そんな考えをゼシカが脳裏に巡らせている間に、エイトとヤンガスは宿屋を出て行ってしまった。 先ほどまでヤンガスが座っていた椅子にククールが腰掛ける。 「お酒くさっ!」 ゼシカの一言目は自然に出た。いや、出てしまった。 「参ったな。そんなに匂うか?」 ククールは悪びれもせずに言うと、自分の袖口や肩などの匂いを嗅いでいる。 「ばっかじゃないの?飲んだ本人には分からないわよ」 「スープ」 え?とゼシカは手元を見る。 「スープ、冷めてるぜ。さげとくか?」 酔っているくせに細かい奴、と思いながら、ゼシカはスープ皿をククールに手渡す。 カウンター越しにククールがスープ皿をおかみさんに渡す様子が、ベッドからも伺えた。 「ドニの町に行ってきたんだ」 思いもかけず、直球が飛んできた。 カウンターから戻ってきたククールは、今度は椅子ではなく奥のベッドに腰掛ける。 「知ってる。ヤンガスが教えてくれたわ。バニーさんたちは元気だった?」 咄嗟に返した言葉を反芻してゼシカは、何で私はイヤミ言ってるのよ、これじゃ誰かさんと同じじゃない!と思い、胸の内で頭を抱えてしまった。 「ああ、元気だったぜ。その元気を分けてもらいに行ってきたんだ」 「はぁ?」 「おかげでこんなに飲まされちまった。まったく、酒酔いルーラなんてやるもんじゃないな」 呆れて言葉が出てこない。 ゼシカは、はぁ、と深くため息をついた。 自分が臥せっている間に、馴染みの店で楽しい時間を過ごしてきたと言うのだ。 この男は。臆面も無く。 何故そんな話を聞かせられなければならない?酔った勢いにしても酷すぎではないか。 「ふーん、良かったじゃない。元気を分けてもらえて」 ククールから視線を逸らし、そう言うことしかゼシカにはできなかった。 「あのさ。目、つぶっててくれないか」 まったく、この酔っ払いは唐突に何を言いはじめるのだろう? そう思いながらククールを見やると、その表情はいつもの軽口をたたく時とは明らかに違うものになっていた。 「なっ…なんでよ?」 「秘密。すぐ分かるけどな」 仕方がないのでゼシカは言われた通りにする。 まさかこんな状態の時に変な事しないわよね?と思いつつも、ゼシカの胸の内には様々な感情が交錯する。 わざわざ人払いをしたのだ。何か目的はあるはず…。 手袋を外す音がした。両手分。 それはほんの数秒であるはずなのに、目を閉じているせいかゼシカには長く感じられた。 身体の内から耳の奥に胸の鼓動が直接聞こえる。気付かれたくはなかった。 ほどなくして。 ゼシカの顎にそっとククールの指が触れてきた。 そのままほんの少しだけ上に、ややククールの側に向かせられる。 「なっ…なにす…」 「動かないで、そのまま」 ククールの声は普段とは全く違っていた。深く、重い。 目をつぶったままなので見えはしないが、おそらくは人さし指であろうそれが、ゼシカの唇に触れてきた。 いわゆる「静かに」という、あの動作。 身体が硬直する。頬が熱くなり、胸の鼓動は更に高まる。 (…ずるい。こんなの反則よ…まるで魔法だわ…) その永遠とも思える一瞬の後。 つっ、と、軽く指の腹で唇を撫で付けられた。 (甘い…?) 「もういいぜ」 ククールの声にハッとしてゼシカが目を開けると、いつもの悪戯っぽい表情が飛び込んできた。 ぼーっとするゼシカの手を取り、ククールは持っていたものを手渡す。 それは装飾が施された小さな瓶だった。 「これは?」 「さっき言ったろ?元気を分けてもらいに行ってきたって」 瓶を開けると、中は琥珀色の液体で満たされていた。 「バニーの仕事ってさ、夜遅くまでやってるだろ?」 「う…うん。それが?」 目をぱちくりさせるゼシカを見てククールはにやりと笑い、話し続けた。 「そんな彼女たちの元気のもとが、このハチミツなんだってよ。商売柄、彼女たちはこういうものに金かけててさ。そこらの店で売ってるのとは全然ものが違うんだ」 ククールは手袋をはめ直し、ベッドに腰掛け脚を組む。 完全にいつものスタイルに戻っていた。 「体調が優れない時にお茶に入れて飲んだり、今みたいに唇に塗ったりすると、バッチリ効くんだと。昔そんな話を聞いたのをふと思い出して、な」 と言いながらククールはウィンクをした。 「お酒たくさん飲まされたって、もしかしてこれをもらったから?」 「そ。今度はこっちの頼みを聞きなさいよ、だとさ」 ぷぷっ、と、思わずゼシカは吹き出した。 「なぁんだ」 「ん?なぁんだ、って?」 「あ…えっと………」 ゼシカは視線を逸らし、所在無さげに瓶を玩ぶ。 「もしかして妬いてくれちゃってたりしたのかい?」 「!!!…もう!ご想像にお任せしとくわ!!」 「光栄に存じます、ハニー」 ククールは立ち上がって言うと、旅に合流する時に修道院の入り口で見せたあのポーズをとる。 それを見たゼシカはたまらず膝を立て、そこに顔を埋めてしまった。 膝に顔を埋めたまま、ハチミツが塗られた唇にこっそりと触れる。 ささくれだった唇をハチミツが潤してくれているのが、指先に感じられた。 優しい甘さが残っている。 今度飲むスープは、きっともう滲みないだろう…。 そうだ。 エイトとヤンガスを呼んできてもらって、みんなでお茶を飲もう。 このハチミツを入れて。 トロデ王とミーティア姫には、エイトに届けてきてもらおう。 無くなったら、またドニの町のバニーさんから分けてもらえばいいものね。うん。 「ねえ、ククール。みんなを…」 膝から顔を上げたゼシカの目に映ったのは、隣のベッドで寝息を立てているククールだった。 一瞬あっけに取られたゼシカは、こつん、と、右のこめかみを膝に置き、ククールの寝顔を見ながらひとしきりクスクスと笑った。 「…ありがとう、ね。ククール」 ~ 終 ~
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随分、時間を無駄にしてしまったわ。 ラプソーンが自らの城を取り込み、完全な復活を果たしてしまったっていうのに、ヤンガス以外の全員が、まともに歩くことさえ出来ないダメージを負ってしまい、戦える状態に戻るまで一週間も費やしてしまった。 レティスに指示された七つのオーブを集め終わり、これからレティシアに向かおうという時、エイトはミーティア姫と話をすることを望んだ。 私は別れの挨拶のようなことは好きじゃないんだけど、これは違うとわかる。 エイトは必ず勝つためにそうするんだって。エイトが戦う理由は、世界を救うためだけじゃなく、ミーティア姫を元の姿に戻してあげるため。その気持ちをもう一度力に変えるために、彼女に会いたいんだって。 でも最近、移動する時は空を飛ぶか、ルーラを使うかしてたもんだから、ミーティア姫は人の姿に戻れるほどの量の水を飲めなかった。 それでどうしてるかっていうと、エイトとミーティア姫は一生懸命、泉の周りを走って喉を乾かそうとしている。 ダイエットを兼ねたヤンガスもそれに付き合ってるんだけど、私は辞退させてもらった。 もちろん魔物が襲ってくるようなことがあったらすぐに加勢するつもりだけど、今のところそういう様子はない。 私は泉から少し離れた場所に座って、空を見上げた。 暗黒神、ラプソーンが待つ空。 追いかけて、追い詰めて、今度こそと何度も思ったのに、あいつはそれをあざ笑うかのように、次々と犠牲を増やしていった。 もう許さない。もう次はない。ラプソーンは必ず、この私の手で倒してみせる。 不意に視界が遮られた。 「そちらの美しいお嬢さん。私めに貴女のそばに座る栄誉をいただけますか?」 ククールがすました顔して、私の顔を覗き込んでいた。折角ひとが気合入れてたっていうのに、拍子抜けしちゃうじゃないの。 「勝手にどうぞ」 今は彼の軽口に付き合う気分じゃない。 「それでは、お言葉に甘えて」 そう言ったククールは、わざわざ私の真後ろに回り込んで腰をおろした。 何してるんだろうと思うと同時にククールは、いきなり私に全体重を預けてきた。 完全に油断していた私は、手の指が足のつま先についてしまうほどの、完全な屈伸を強いられる。 「いたたたたたっ! いたっ、おもっ、ちょっと重い! 痛いってば!」 パッと見、細く感じるけど、鍛えてる上に背も高いから結構重いのよ、この男。 「へえ、途中で胸がつかえるかと思ってたのに、ゼシカは身体やわらかいんだな」 妙に感心したような声をあげられた。 「このっ・・・ドアホーッ!!!」 渾身の力を込めて押し返す。何とか元の体勢まで戻すことは出来た。 「おおーっ。すごいすごい」 拍手までされてしまった。何なのよ、このバカ。 付き合ってられないとは思うけど、ククールの力加減は絶妙で、立ち上がって逃げるまでは出来ない。 「あんまり上ばっかり見てると疲れるぜ? 足元が疎かにもなるしな」 ・・・何よ、その見透かしたような言い方。 いつもそうよ。自分は何もかも全部わかってるっていうような顔をして、私のことは子供扱いする。 この一週間で、やっぱりククールは私には理解しきれない人なんだっていうことがわかった。 立つのもやっとっていう時は、辛い気持ちやオディロ院長との思い出なんかを、本当にちょっとだけなんだけど話してくれたりして、少し距離が縮まったような気がしてたのよ。 だけど少し回復すると、ククールはマルチェロから渡された指輪を見つめて考え事することが多くなって。そして私はそれを、お兄さんを心配してるんだと受け止めてた。 マルチェロときたら死にそうなケガしてたのに、治療もしないでゴルドから歩き去ってしまったから。あの姿を見送る時も、本当に回復魔法が使えない自分が歯痒かったわ。 だけど、それは私の思い込みだった。 普通に歩けるようになるとすぐ、ククールは一人でサヴェッラに行くと言い出した。 私もエイトも、やっぱり歩けるようになったばかりの時で、どうせ戦えないんだし、ルーラを使うからすぐに戻るって。 もちろん私たち、止めたわよ。何をするつもりなのかわからないけど、行くなら全員で行こうって。 だけど、同行を許されたのはエイトだけ。私とヤンガスは置いてけぼり。 キメラのつばさを使って後を追うことも考えたけど、絶対についてくるなってクギを刺されて、出来なかった。本気で怒らせると、ククールは結構怖いから。 その夜、二人が戻ってきた時もククールは何も話そうとはしてくれなくて、何があったのかを教えてくれたのは結局エイトの方だった。 ククールはサヴェッラ大聖堂のお偉方のところに行って、『行方不明の新法皇様から即位式の直前に、煉獄島の囚人たちを新法皇誕生の恩赦による減刑で出獄させるよう、命令を受けていた』なんて涼しい顔して大嘘ついて。 マルチェロからもらった騎士団長の指輪を証拠の品だって見せて、ニノ大司教たちを助け出す手筈を整えてしまったんだって。 それと崩壊してしまったゴルドへの救援も一緒に要請したらしい。 もちろん、嘘ついたのが悪いなんて言うつもりはないわよ。 煉獄島みたいなひどい所、助けられるなら一日だって早く出してあげた方がいいと思う。崩壊してしまったゴルドにも、回復魔法の専門家の聖職者たちを送り込むのは何よりの助けになると思う。 でも、どうして一人でやろうとするの? 聞くまでもなく、理由はわかってるわよ。もし嘘がバレた時でも、自分一人が捕まれば済むなんて思ってるんだわ。だけどそういうところが本当に腹立つのよ。 ・・・でも多分私が一番ショックを受けてるのは、マルチェロに貰った指輪を見ながらククールが考えていたことが、マルチェロの行方じゃなくて、その使い道だったっていうことの方なのかも。 ククールがマルチェロのことを全く心配してないとは思わないわ。でも私だったらきっと、あんな形でお兄さんに渡されたものを、何かに使おうだなんて思いつきもしない。 そして、いくら人助けのためだからってそれを使って公の場でサラッと嘘ついて、その帰りにベルガラックのカジノに寄るなんて絶対無理よ。 そばで見ていたエイトにも教えなかったらしいんだけど、多分とんでもないイカサマをして、わずか数時間の間にコインを40万枚も稼ぎ、大量の剣やら鎧やらをお土産にすました顔して帰ってきた。 私にもグリンガムのムチなんていう最高級の武器をプレゼントしてくれたもんだから、いろいろ言ってやりたいことがあったのに、何も言えなくなってしまった。 本当にわからない。繊細で傷つきやすい人なのかとも思うのに、変なところで人並み外れて図太いんだもの。 そういうところ、半分くらい分けてほしいもんだわ。 「最後の戦いの前に、ゼシカに話しておきたいことがあったんだ」 自分の考えにふけっていた私は、背中越しにつたわるククールの声の響きに、ちょっとドキッとした。 「やめてよ。戦いの前にどうとかって、私、そういうの好きじゃないのよ。話なら帰ってきてから聞くわ」 「今じゃないと、意味ないんだ」 いつになく真剣な声に、それ以上は拒絶できない。 「・・・わかったわ、どうぞ」 「オレがこのパーティーに加わる時、ゼシカに言った言葉、覚えてるか?」 何よ、何言うつもり?」 「・・・覚えてるわよ。私だけを守る騎士になるとか何とかでしょう?」 「そう、それ。あれ、無かったことにしてくれ」 頭をウォーハンマーで殴られたような衝撃がきた。 「あの頃のオレは何も考えてなかった。ひと一人守るってことがどれだけ難しいことか、わかってなかったから簡単にそういうことを口にできた。本当にバカだったと思う」 ひどい・・・。 ククールのバカバカバカ! 何よ。どうしてそういうことを、今言うの? 守ってくれてたじゃない、ずっと。私がどれだけ支えられてきたか、わからないの? これから決戦だっていうのに、いきなりそんなこと言って突き放すなんて、ひどすぎる。一気にテンション下がっちゃったじゃないの。 ・・・本当に、私ずっと頼りっぱなしだったんだ。ククールのこんな一言でショック受けるほど。 もしかしてククールは、もういやになったのかしら。この間だって私のために危うく命を落とすところだったんだし。 そう考えると、これ以上甘えちゃいけないんだと思う。 そうよ、初めは私一人で兄さんの仇を討つつもりだったじゃない。 私だけを守るなんていうククールの言葉も、言われた時は全く信用してなかった。 それなのにククールは、私を何度も助けてくれて、守ってくれた。 これ以上望むのは間違ってる。次が最後の、それも一番大きな戦いなんだもの。こんなことで落ち込んでるようじゃあ、暗黒神なんてものに勝てるわけないわ。 「それにゼシカつえーしな。ドラゴンキラーやもろはのつるぎなんて片手で振り回してるのを見た時には、うかうかしてたら剣でも負けると思ったもんだ」 でも何か、こういう言われ方されるのはムカつく。 確かに身体が回復してからというもの、今までは重くて上手く扱えなかった剣が嘘のように軽く感じるようになった。 力が特別強くなったわけではないんだけど、私にも少しは魔法剣士だったご先祖様のチカラが受け継がれてたっていうことなのかしら。 でも、だからって剣でククールより強くなれるなんて思ってないわよ。ククールだって、きっと本気では思ってない。 こういう時でも、私をからかうのは忘れないのね。 「それにゼシカだけ守ったって、そんなものに意味なんてないんだよな。大事なものが何もない世界に一人だけ取り残されても寂しいだけだ。ケチなこと言わずに、守れるものは全部守る」 ちょっと泣きそうだったんだけど、続くククールの言葉に、そんな気分は吹き飛んだ。 「オレ一人じゃキツいけど、ゼシカと一緒だったらこの世界全部だって守れる気がする。・・・頼りにしてるんだぜ、これでも。ラプソーンとの戦いでも、よろしくな」 ・・・どうしよう、目眩がする。 「ゼシカ?」 私が返事をしないもんだから、ククールがこっちの様子を伺おうとしてる。 ダメ! こっち見ちゃダメ。 「・・・まかせといて」 それだけ言うので精一杯だった。でも、ククールの動きは止まったので一安心。 見られたくないの。私きっと今、すごく変な顔してるから。嬉しすぎて、頭がおかしくなりそうなんだもの。 ずっと聞きたかったの、その言葉。『頼りにしてる』って、そう言ってほしかった。嘘や慰めじゃないよね? ククール、そんなに甘くないものね。 言葉は何も思い浮かばなくて、でも何かは伝えたくて、私もククールの背に体重をかけた。広くて温かくて、力強い背中。命も何もかも、全て預けられる。 うん、私も頼りにしてる。あなたを信じてる。一緒に守ろうね、私たちがこれから生きていく世界を。 さあ、首を洗って待ってなさいよ、ラプソーン。今の私には怖いものなんて、もう何もないんだから! ほしかったもの-後編
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今日は朝から一度も、ククールとは口をきいていない。 昨夜泊まった雪越しの教会で、私は思いっきり泣き言を言ってしまった。 だって皆、私が離れてる間に、すごく強くなってたんだもの。 力も体力も、元々敵わなかったのに、ますます差をつけられちゃってて。ハワードさんの力を借りて習得した呪文も、今の私の魔力では本来の威力が出せていなくて。 散々迷惑かけた上に、役立たずにまでなってるのかと思うと、どうしていいかわからなくなった。 そんな私をククールは根気よく励ましてくれた。。私は魔法使いなんだから、力や体力で勝とうとしなくていいんだって。私の魔法は、ちゃんとみんなの助けになれてるって、そう言ってくれた。 その言葉で私、思い出したの。リブルアーチで目覚める前に見た、サーベルト兄さんの夢。まだ子供だった頃に聞かせてくれた、ご先祖様の話と兄さんの言葉。 『ご先祖さまの魔法のチカラは、ゼシカ、お前に受け継がれたんではないか』 そう兄さんは言ってくれた。それが本当だったなら、きっと私もみんなの役に立てるようになるはずだと思えて、希望が持てた。 でも、そう話した途端、ククールの声は急に冷たくなった。 『結局兄さんなのかよ、このブラコン』 いきなりそう言われて私、何が何だかわからなくなったわ。 だって、それまでククール、すごく優しかったのよ? 仲間を傷つけた罪の意識や、暗黒神なんてものを止めなくちゃならない不安とか、私の迷いを、まるで懺悔を聞く神父様のように、ずっと聞いてくれていた。さすがに一応は聖職者だっただけあるって思ったのに、何でいきなりあんなこと言うの? 気むずかしいにも程があるわよ、あったまきちゃう。だから、しばらくククールとは口をききたくない。向こうが謝ってくるまで、絶対に許してあげないんだから。 それにしても、寒いわ。 黒犬を追って北に進んでるんだけど、トンネルを抜けると、そこは雪国だった。 少し先も見えなくなるような猛吹雪。油断すると意識が飛びそう。みんなの気も立ってるみたい。ヤンガスと何やら言い合っていたトロデ王はスネちゃって先に行こうとする。 その時だった。地鳴りがし、その方向に顔を向けた途端、大量の雪が私たちに向かって襲いかかってきたのは。 私の視界が赤く染まり、その直後、何もわからなくなった。 ・・・身体が動かない。少し息も苦しい。 私、このまま死んじゃうのかしら? 暗黒神と戦って死ぬのならともかく、こんな所で雪崩に巻き込まれて死ぬなんてマヌケすぎる。サーベルト兄さんやチェルスに合わせる顔がないわ。 でも不思議ね、ちっとも寒くない。むしろ暖かいぐらい。それにどうしてこの雪は、こんなに赤い色をしているの? ・・・雪が赤い? ようやく意識がはっきりする。 雪じゃない。この赤は騎士団の制服の色。身体が動かなくて息苦しいのは、ククールの腕が、私をしっかりと抱え込んでいるから。 ・・・私のこと、かばってくれたの? 頭も満足に動かせないからよくわからないけど、シーツや毛布の感触。雪の中からは助け出されたみたい。 「ククール、大丈夫? ねえ、ククールってば、起きて」 出来る限り、もがいてみる。エイトやヤンガスがどうなったかもわからないし、ククールだってケガをしてるかもしれない。何とか起き上がって、状況を把握しないと。 ククールが身じろぎする。腕の力が少し緩んだ。 「ククール、気がついた?」 視線を上げると、ククールと目が合った。 「・・・ゼシカ?」 まだ少しボーッとしてるみたい。目を覚ましたばかりなんだから、無理ないわ。私もそうだったんだし。 「そうよ、大丈夫? ケガとか・・・」 そこまでしか言えなかった。 ククールが私の身体を強く抱き締めてきたから。 頭の中が真っ白になる。息ができない。 でもそれはほんの一瞬のことで、ククールはすぐに跳ね起きた。 「ゼシカ! 大丈夫か? ケガとかしてないか? どこか痛むとこは?」 額から、頬、首、肩へと、ケガを確かめるようにククールの手がなぞっていく。 私は心臓が止まりそうになる。身体が小さく震えてしまう。 だって、真剣な顔と声が近すぎて・・・。 「ま、待って・・・。待って、大丈夫だから・・・」 これだけの声を絞り出すのが、やっとだった。 ククールの動きが止まり、沈黙が流れる。 「ご、ごめん!」 そう言って後ろに飛びのいたククールは・・・。ベッドから落ちた。 「だ、大丈夫?」 私は慌てて覗き込む。そんなに高さはないのでケガするはずもなく、ククールはすぐに起き上がった。 「・・・ここは?」 暖炉に火が燃えている石作りの部屋。隣のベッドでエイトが、その向こうではヤンガスがまだ眠ったままだった。 トロデ王とミーティア姫の姿は見えない。 部屋の外から足音が聞こえる。ククールがテーブルの上に置かれてた剣を掴んだ。私も鞭を取ろうとベッドから出る。 ドアが開いて入ってきたのは、トロデ王よりも大きな体をした犬だった。どうやってドアを開けたのかしら。なんて考えてると、小さな目をパッチリ開いた優しそうなおばあさんが続いて入ってきた。 どう見ても悪い人じゃなさそう。ククールもそう思ったらしく、剣は離さないものの、警戒は解いたみたい。 「目が覚められたようですな。私はこの家に住むメディという者です。あなたがたは雪崩に巻き込まれたんですよ」 落ち着いた声で告げられた。 「えーと、メディさん? あんたがオレたちを助けてくれたのか?」 「私がというより、バフが・・・。ああ、この犬の名前ですがね。バフは雪の中から人を見つけるのが得意なんですよ。上へいらっしゃい。顔が緑色のお連れさんが心配して待っていますよ。身体の温まる薬湯も作ってますから」 顔が緑色って、トロデ王よね。良かった、無事だったんだ。 私はメディさんに付いて部屋を出ようとしたけど、ククールは留まっていた。 「先に行っててくれ。オレはこいつらの様子を見てから行く。これだけ騒いで起きないってのは普通じゃないからな」 ・・・ククールったら、ほんとに他人の心配ばっかりなんだから。 私はその言葉通り、先に上へ行くことにした。トロデ王とミーティア姫の無事をこの目で確かめたかったし。 「メディおばあさん、助けていただいて、本当にありがとうございました」 まだお礼を言ってなかったことを思い出した。 「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。それより窮屈な思いをさせてしまって、すみませんでしたね」 メディおばあさんが言った言葉の意味が、私は咄嗟にわからなかった。 「あのお兄さん、どうやってもあんたのこと離そうとしませんでね。仕方ないから一緒のベッドに寝かせたんですよ。でも、落ちなさったんでしょう? 上の階まで音が聞こえましたよ」 「・・・すみません、お騒がせしました」 落ちたのは私じゃないけど、何か恥ずかしい。 「大事に思われてるんですね。いいですなあ、若い人は」 顔が赤くなっていくのがわかった。目が覚めてすぐ、自分じゃなくて私のケガの心配をしてくれたククール。どうしてだろう、さっきのことを思い出すと、心臓が痺れるような感じがする。 「・・・そういう人、なんです。今だって他の二人の具合を見てるでしょう? たまたま私が女で一番体力ないから、ああやってかばってくれるだけで、いつだって他の人のことばかり考えてるんです」 わかってはいるのよ。そういう人だって。 初めて会った時は、外見の良さを鼻にかけた軽薄な男だと思ったけど、全然違う。全く逆の人。 今でも時々、頭にくるようなことや、突き放したようなこと言うけど、それって口先だけなのよ、テレ屋さんだから。 昨夜だって自分も疲れてるだろうに、イヤな顔一つせずに私の泣き言を聞いてくれて、励ましてくれた。 いざとなったら、ちゃんと助けてくれる、優しくて強い人。 忘れないようにしないとね。ククールは素直になれないだけの、純粋な人だってこと。 だって私、そんなこと、とっくの前に気づいてた。 そうよ、私、ちゃんと知ってたんだから。 赤-後編
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概要 2007年6月21日にニンテンドーDSで発売されたボードゲーム。通称「いたストDS」。 DQキャラが登場するのは【いたストSP】、【いたストポータブル】に続き、3作品目となる。 登場キャラ 前回まではFFシリーズのキャラと共演したが、本作ではマリオシリーズのキャラクターと共演する。 登場キャラクターはスライム、竜王、プリン(ムーンブルクの王女)、アリーナ、クリフト、ももんじゃ、ビアンカ、ハッサン、ヤンガス(少年Ver.)、ゼシカ、ククール。 イベントのみ登場に登場するキャラクターとしてホイミンとおどるほうせきがいる。 マリオとDQという関係性の薄さや、DQ側も個々のキャラクターの関連性の薄さもあり、ただのキャラゲーかと思いきや、竜王に「ワガハイの方が魔王歴は長い」と言ってのけるクッパや、ルイージに「親近感を覚えます」と言うクリフトなど、かなりのネタ要素がある。 操作キャラ SPやポータブルでは各キャラクターも自操作コマとして使用できたが、今回はⅨのようにキャラクタークリエイトした自分の分身のみを操作することになる。 入手した衣装で着せ替えも可能。衣装については【いたストDSの衣装一覧】を参照。 タイトルの由来 タイトルの“DS”の由来は、特に明らかにされていない。 一応“ニンテンドーDS”と“DRAGONQUEST SUPERMARIO”のダブルミーニングという説がある。
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神鳥レティスの願いを受けて、人質にされてる卵を救うために神鳥の巣がある山を登っていた私たちは、魔物の不意打ちをくらった。 態勢を整える間もなくヤンガスは集中攻撃を浴びてしまい、深手を負ってしまう。 何とか魔物は蹴散らしたけれど、ベホマの呪文すら全く効果が見られない程にヤンガスの受けたダメージは大きく、ククールとエイトが二人掛かりでザオラルを唱えている。 ザオラルは死者を蘇らせる呪文だなんて言われてるけど、そんな都合のいい魔法なんてものが、この世にあるわけがない。ホイミ系の呪文は本来人間が持っている治癒力を、爆発的に引き上げて傷を塞ぐ魔法。 でも、それすら効かなくなる程に弱ってしまった体に、生命力を吹き込むことが出来る呪文がザオラル。それだって成功するとは限らない、難しい魔法。 こんな時、自分がもどかしくて、どうしようもない。。 私だって役割は決まっている。せいすいを使って魔物を近寄らせないようにし、治療の邪魔をされないようにこの場を守る。今、この状況で戦えるのは私だけ。 だけど、どうして私は回復魔法が使えないの? こんなふうに仲間が弱っていく姿を、ただ黙って見ているしかない。 ザオラルを使わなくちゃならない状況は今までにも何度かあったけど、こんなものに慣れることは出来ない。 ヤンガスがこんなことで負けたりしないって、わかってる。ククールとエイトが必ず助けてくれるってことも信じてる。 だけど、やっぱり不安にはなるのよ。 まして、今日はいつもより治療に時間がかかってるみたいなんだもの。 エイトのザオラルが効果を発揮し、ヤンガスの顔に生気が戻る。 続けてベホマがかけられると、ヤンガスはすぐに目を覚まして口を開いた。 「血が足りねえ、メシと酒・・・」 ・・・こんなこと言えるんなら、もう大丈夫ね。心配して損したわ。 レティスには悪いけど、卵を取り戻すのは一日待ってもらうことにして、この闇の世界のレティシアで体力とMPを回復させてもらうことにした。 いつもはミーティア姫とトロデ王のお世話をするエイトだけど、今日は私が代わることにした。今日くらいはヤンガスに付き添ってあげたいってエイトが言うから。 なんだかんだ言っても、やっぱりエイトは優しいわよね。 ますますヤンガスの『兄貴ラブ』が白熱しそうだわ。 「ゼシカは心配性じゃな。昔から美人薄命と言うじゃろう。その言葉に従うと、ヤンガスのやつは殺しても死にゃあせんわい。心配して損したのう」 トロデ王に,神鳥の巣でヤンガスが死にかけたことを話したら、こんなことを言って笑ってる。 素直じゃないわ。その場にいたら一番心配するの、きっとトロデ王なのにね。 「ワシらのことはいいから、お前も休んだ方がいい。明日もまた山登りじゃろう? 疲れを残すと後が辛いぞ」 私はお言葉に甘えて、そうさせてもらうことにした。せいすいを念入りに馬車の周辺に振り撒いて、魔物が近づけないようにしてから村に戻る。 水場の近くを通ると、私と同じように色の着いてる人が、この村の娘さんと何やらお話ししていた。 視線を感じたのか二人は私の方を振り返る。村の女性の方は、慌てたように立ち去ってしまった。 何よ。ククールは怖くなくて、私は怖いわけ? 失礼しちゃうわ。 「あの人『光の世界の人なんて信用できない』って言ってた人よね。そのわりには随分親しげに話してたじゃないの」 つい、トゲのある言い方をしてしまう。 「親しげでもないさ。洗濯道具借りてただけだよ。ヤンガスの服、血まみれであんまりだと思ったから洗ってやってたんだ」 ・・・確かにククールの手には、濡れたヤンガスの服がある。 「言ってくれれば私が洗ったのに。何度もザオラル使ったから疲れてるでしょう?」 「ゼシカはトロデ王と姫様の世話してただろ? その上洗濯までさせられないさ」 ククールはどんな時も、私をあてにしてはくれない。出来ることは全部、自分でやってしまう。そして、大抵のことは一人で出来ちゃう。 「ククールはすごいね」 思わずこぼしてしまう。 「覚えてる呪文の数は私と同じなのに、攻撃も補助も回復も全部揃ってて、バランス良くて。おまけにMP無くなったら役立たずになる私と違って、ちゃんと武器でも戦えるんだもの。 出来ることが多くて羨ましい。私だってせめて回復魔法だけでも覚えられたら、みんなを守れるのにね」 ククールは一瞬だけ私の顔をジッと見て、それからいきなり笑い出した。 「何よ、何がおかしいのよ! 私は真剣に言ってるんだからね!」 ククールが、ひとのコンプレックスを笑うような人とは思わなかったわ。 「悪い悪い。ゼシカのオレに対する評価が意外と高かったのに、驚いちまった。まさか羨ましがられてるとは、夢にも思わなかった。 この上ゼシカに回復魔法まで覚えられたら、オレの立場が無くなるっつーの。贅沢なこと言ってんじゃねえよ」 ククールはまだ笑いが収まらないようで、私はますますムキになってしまう。 「あんたみたいに一人で何でも出来る人に、私の気持ちなんてわかんないわよ。 私なんて、攻撃魔法しか取り柄がないのよ。もう一つくらい出来ること増やしたいと思って何が悪いの?」 「わかってねえのはゼシカの方さ。一人旅するならともかく、パーティー組む上で何でも一通り出来るヤツなんて、大して重要じゃない。 何か一つ得意なものがある人間の方が、ずっと役に立つんだ。それに回復魔法は皆を守る呪文なんかじゃない。全く逆で、守れなかった結果だ」 ククールの声が厳しいものに変わる。 「回復しなきゃならないってことは、誰かが傷ついたってことだ。大事なのは攻撃をくらう前に敵を全部倒しちまうこと。 ゼシカはいつでも、真っ先に魔法を放って敵の頭数を減らしたり、体力を削ってくれてるだろ? そのことでケガさせられる確立が激減する。 一番理想的な形でオレたちを守ってくれてるんだ。回復魔法なんて、使わずに済むなら、その方がいいに決まってるさ」 ・・・最近、少しわかってきた。ククールは優しい人ではあるけど、決して甘くはないって。 慰めたり励ましたりはしてくれるけど、気休めの嘘は言ってくれない。本当に必要な時は必ず助けてくれるけど、半端な気持ちでやっていることに手を貸してはくれない。 だから、その言葉も行動も信じていいんだって。 「それに、エイトの奴がベホマズン覚えてくれやがったから、オレは回復役としても二番手に降格だぜ? それを羨ましいとか言われたら、笑うしかねぇだろ。 そんなことより早く戻ろうぜ。昼も夜もわからないなら、サッサと寝ちまった方がいい。起きたらまた、あのキッツイ山登りが待ってんだからな」 そう言って、村長さんの家に向かって歩きだしたククールの後ろ姿。 何だか突然、その姿が消えてしまいそうな気がした。 「ククール!」 私は思わずククールの腕にしがみついてしまう。 「何だ、どうした?」 ククールは驚いたように振り返る。蒼い瞳が私の顔を覗き込んでいる。 「・・・何だか、ククールがいなくなっちゃうような気がしたの・・・」 そう思ったら、急に怖くなった。足元が崩れてしまうような気持ちになった。 「何だよ、それ。疲れてるんじゃないのか? 今日はヤンガスが死にかけたり、色々あったからな」 ・・・そうね。きっとヤンガスのことがあったから、不安な気持ちになったのかもしれない。 「それと、あれか。美人薄命っていうからな。オレのことは儚く見えても仕方ないよな」 そのククールの言葉に、私は吹き出してしまった。 「やだ、さっきトロデ王も同じこと言ってたのよ、美人薄命って」 変な所で発想が似てるのよね、この二人って。 「あのおっさんと同レベルかよ・・・」 ククールは肩を落としてしまった。 男のくせに自分を美人だなんて言うアホな人の、どこが儚いのよ。消えちゃったりするはずないじゃない。私ったら、バカみたい。 さっきのはきっとアレだわ。この黒一色の世界で、こんな真っ赤な格好してる人、浮いて見えて当たり前よ。感覚がおかしくなってただけよ。 ・・・でももしククールに何かあった時、私は守れるのかしら。 いつも助けてもらうのは私ばかりで、泣き言言って励ましてもらうのも私の方。だって、ククールには基本的にスキがないから、私にはしてあげられることがないんだもの。 守られるばかりはイヤ。私だってククールのこと守りたいのよ。 確かに回復魔法を覚えたいなんていうのは、ないものねだりだと思うけど、強くなりたいって思うことは間違ってないわよね? 不安-後編
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男の人って、皆こうなのかしら。 ようやく闇の遺跡の結界を払って、いざ決戦だっていうのに、緊張感が無さすぎるわ。 ククールとヤンガスはさっきから、まるで漫才みたいなことばっかり言ってる。 『ドルマゲスはカミサンと待ち合わせ』とか『この中の誰かが帰らぬ人になっても、アッシは皆を忘れない』とか、バカじゃないの? エイトだけは違うと思ってたら、宝箱に入ってたちょっと珍しいアイテムが錬金に使えそうだからって、一度馬車に戻ったりするし。 もう、みんな真面目にやってよね! 「もしドルマゲスが土下座して謝ってきたら、どうしやす?」 ヤンガスがまた、変なことを言い出した。 「そっ、それは問題だな」 何が、問題なのよ、ククールまで! 「無抵抗の敵に手を上げるのは、騎士道に反する」 「なにが騎士道よ。バッカじゃないの」 ついカッとなってしまう。 あいつ、ドルマゲスは、無抵抗のサーベルト兄さんやオディロ院長を、笑いながら殺した奴なのよ。今さら何をしたって許せるもんですか。たとえ刺し違えてでも、あいつはここで止める。もうこれ以上犠牲を出すわけにはいかないんだから。 「ゼシカ、こえーよ」 ククールは笑ってる。どうして、そんなに呑気にしてられるの? 「ククールは、オディロ院長の仇を討ちたくないの? ドルマゲスが土下座してきたら、本当に許すつもり?」 ククールは肩をすくめる。 「あの野郎が、そんなことしてくるとは思えねえな。だから仇はしっかり討つさ。そしてオレは自由になる。 ゼシカも、敵討ちが終わった後のことを考えた方がいいぜ。オレは勝てない勝負はしない。ドルマゲスは必ず倒す。全員で生きて帰るとか言ってる口で、相打ち覚悟なんて言うなよ。ホントにそうなっちまうぞ」 「・・・ごめんなさい」 わかってはいるのよ、本当は、みんな真剣だって。 「リラックスしろよ、何度も言ってるだろ?」 そう、確かにククールはさっきから何度もそう言っていた。 そういえば、以前ヤンガスが言っていた。私とエイトは場数を踏んでないって。 だから、二人でバカなことばっかり言ってたのかしら。少しでも私たちの緊張を和らげるために? 私には帰る家がある。エイトもトロデーン城の呪いが解けたら、元の暮らしに戻れる。でも、ククールとヤンガスはそういうものはもう無いはずなのに・・・二人とも強いね。 さっき、ククールを誘ってみた。ドルマゲスを倒した後、リーザス村に来ないかって。 でもククールは相変わらずのポーカーフェイスで、どう思ったのか全然わからなかった。また『よけいなおせっかい』って思われたかもしれないわね。でも、言わずにはいられなかった。 ヤンガスは『エイトの兄貴のそばがアッシの故郷』って言ってるから大丈夫だと思うんだけど、ククールとは、一度別れたら、もう二度と会えなくなりそうな気がして。 自分は誰にも必要とされてないって、そう思い込んでるみたいなんだもの。とてもほっておけない。 それなのに私の身の振り方を心配するなんて、どうかしてるわ。いつだって、周りの人のことばっかり。 だから、余計に心配になる。 心配してる人間が、ここに少なくとも一人はいるんだって、せめてそれだけでも知っておいてほしかった。 ・・・今はもう余計なこと考えちゃダメ。ドルマゲスは気を散らしてて勝てる相手じゃないわ。 あいつはもう、すぐそこにいる。 何なのこいつ・・・。やっとの思いで倒したと思ったのに。 ドルマゲスは変わり果てた。翼に尻尾、尖った耳。もう人間とは呼べない。 私はもうあまりMPが残っていない。ククールもエイトも多分そう。この状態で悪魔の化身のようなこいつと、戦って勝たなくちゃならないんだ。 でも、ククールを見ると、彼は不敵な笑みを浮かべていた。その姿は自信に溢れていた。 何か策でもあるの? ・・・まだ、諦めるのは早い。そう思っていいのよね。 そうよ、初めてドルマゲスと遭遇した時、私、怖くて体が動かなかった。 でも今は、ちっとも怖くなんてない。だって、ここに来るまで私たちはたくさんの苦難を乗り越えてきた。みんなの力を合わせれば、どんなことだって出来た。 サーベルト兄さんだって、一人の時じゃなければ決してやられはしなかったはず・・・。 今、私は一人じゃない。だから、こんな奴に負けるわけにはいかないんだわ。 ひとりじゃない-後編